山崎パンのプライドと勝算
“下請け”に成り下がることは、製パン業界最大手のプライドが許さなかった。
2016年2月12日、山崎製パンは子会社のヤマザキ・ナビスコが締結している米モンデリーズ・インターナショナルとの製造・販売のライセンス契約を今年の8月末で解消すると発表した。
ビスケット菓子の「オレオ」や「リッツ」など4商品との関係を打ち切り、ヤマザキ・ナビスコは9月1日からヤマザキビスケットと名を変えることになる。
この発表に伴い、山パンの株価は急落。15日には一時、発表前比14%安の2099円の値を付けた。発表後に一斉に飛び交った、「ヤマザキ・ナビスコの 営業利益34億円(2015年12月期。山パンの連結営業利益は270億円)が全て吹き飛ぶ」かのような報道を投資家が嫌気した格好だ。
なぜ山パンはモンデリーズとの契約を終了するのか。
背景には、モンデリーズの経営戦略の変化がある。モンデリーズは12年10月に米クラフトフーズからスピンオフ後、事業の「選択と集中」を実施した。ノンコア事業を整理し、日本では昨年4月に保有する味の素ゼネラルフーヅの株式を味の素に売却した。
その一方で、菓子事業はコア事業と位置付けられ、「販売を自社で行う方針になった」(モンデリーズ・ジャパン)。そのため、「製造のみをやってほしいという申し出」(飯島延浩・山崎製パン社長)を山パン側に投げ掛けたのだ。
● 競合商品の投入も検討
しかし、自社で物流やデイリーヤマザキなどの販売網を抱える“自前主義”の山パンにとって、事実上の下請け提案は受け入れ難いものだった。
さらに、山パンには4商品分の稼ぎをある程度カバーできる勝算もあった。そもそも、契約終了によってヤマザキ・ナビスコの営業利益34億円の全てが吹き飛ぶわけではない。
というのもヤマザキ・ナビスコの稼ぎ頭は、自社製造の「チップスター」だからだ。
契約を終える4商品の売上高は計150億円程度で、これはヤマザキ・ナビスコの売上高約400億円(15年12月期)の4割程度にすぎない。
自社商品は今後も販売を継続するため、契約終了に伴う影響は「34億円もなく、工場の稼働率等の固定費を含めても最大で20億円程度」(アナリスト)だ。
さらに、山パンは契約制限が切れる17年12月から競合商品の販売も検討。商標権の問題はあるにせよ、製造技術のある山パンは、「山崎オレオ」や「山崎 リッツ」といった類似の競合商品の販売も可能なのだ。長期的に見れば、自社商品はライセンス料の支払いがない分、販売動向次第では今以上の収益を確保でき るかもしれない。その暁には「本家」vs「山パン」の戦いが勃発することになるだろう。